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美術作家 樋口朋之

展覧会告知2___Trans/speed, Dub/paint

展覧会告知致します。
暑い最中になりますが
どうぞよろしくお願い致します。
 
この度展覧会企画を引き受けて下さる、
梅津元氏((埼玉県立近代美術館主任学芸員/芸術学)のテキスト
「樋口朋之個展「Trans/speed, Dub/paint」のための覚書(未完)」を以下に全文掲載させて頂きます。
この場を借りて梅津氏に御礼申し上げます。
(樋口)
 
 
樋口朋之個展「Trans/speed, Dub/paint」のための覚書(未完)

樋口の個展会場には、ぶっきらぼうに、多数のファイルが置いてある。
大きさも様々で、整理されているとは言い難く、きれいとも言い難い。
そのファイルを手に取り、その重さを感じながら、膨大なドローイングを見る。
いつしか、画廊であることを忘れて、画家のアトリエをたずねている気分になる。

それらは、いわゆる「作品」を制作するための日々の生業なのであるが、習作や下絵とは明らかに違っている。それにしても見る側への配慮の全く感じられないこの提示の仕方が気になって聞いてみると、樋口は、代表的なものを選ぶ(=序列をつける・整理する)ことが苦手なので、多数のファイルを持ってくるしかない、という。そこには、壁面に展示される「作品らしい作品」(カンヴァス)を見せるだけでは物足りなく、これらのファイルに納められた大量のドローイングを見せたい、という意思が滲んでいる。

確かに、日々の生業としてのドローイングに、本人が序列をつけるのは難しいのかもしれない。例えば、日々の生活を送る人に、あなたの毎日を、意味のある順、価値のある順に、序列をつけてください、と言われても、特別な日をのぞけば、そうした序列がつけにくく、困惑してしまうだろう。言い方をかえれば、日々のドローイングも、日々の生活も、その時々の必然性にみちびかれた結果が生まれているのであり、似たようなことの繰り返しや単調さが感じられたとしても、それを一元的に計測する高次の基準を想定することができない、ということである。そこに別な基準を持ちこむのは、他者ということになるだろう。

それでも樋口は、これまでは、「展覧会」という目標に向けて、「作品らしい作品」を制作してきたという。結果から判断すれば、そのことによって、日々のドローイングは、序列としては、展覧会で発表される「作品らしい作品」の下位に位置づけられてしまい、補足的・資料的なものに見えてしまうことになる。しかし、今回、樋口は、「作品らしい作品」(=「まとめの作品」と樋口は表現している)をあえて制作・出品せず、「紙の作品」で勝負する、と聞いた。作品の大きさにおいては、日々のドローイングよりもスケールの大きい、いわば展覧会を想定した作品を手掛けるとはいえ、基本的には、日々の生業であるドローイングの仕事で展覧会を構成するというこの判断は、私にとっては、実に納得のいくものであった。人生の「晴れ舞台」のような「作品らしい作品」に頼ることなく、特筆すべきことの何もない日々の営みを主役にする、という決断なのだから。

私はいつも、樋口の個展会場で、その大量のドローイングに困惑しながらも、それらに向き合っているうちに、いつしか、その世界に自分がひきこまれてゆくのを感じていた。決して習作でも下絵でもない、一枚一枚のイメージ。それらを、そのまま受けとめ、大事にすること。そして、その量的な視覚経験から、もうひとつ別な次元の感覚を導き出すこと。そこには、イメージとイメージを連鎖させていくドライブ感、スピード感、トランス的な感覚が、確かに発生している。この感覚に、展示や出版など、それにふさわしいフォーマットを与えることで、樋口の芸術の魅力を、より明確に伝えることができるのではないか。今回、「企画」という立場で私が樋口の展覧会に関わるのは、このような基本的な立場にもとづいている。

振り返ってみれば、今回、アートトレースギャラリーでの展示を行うかどうかを樋口が逡巡している時期に、私は、「ぜひとも個展を開催してほしい、作家本人としての決断が難しいなら、私が企画という立場で関わっても良い」という態度を示した。自分の作品が他者にとって意味を持つのか、価値を持つのか、判断ができないならば、私は、他者のひとりとして、樋口の作品に意味を見出し、価値を見出していることを宣言し、他者の判断を得た形式で、個展を開催すればよいのではないか、と考えたからである。

従って、「企画」とはいっても、出品作品の選定や展示プランの決定などにおいて、特権的な立場から采配をふるうわけではない。展覧会を実現する過程も、制作と同様に、樋口自身が主導的に行っている。企画者という立場で私が関与しているのは、展覧会の枠組み作り、コンセプトの明確化、タイトルの決定などである。また、会場で掲示または配布するテキストの執筆、会期中に開催する樋口との対談を通じて、私自身の樋口の芸術に対する見解を示していくことになるだろう。

そして、これは現時点では樋口と協議を重ねている段階であり、あくまでも検討案ではあるが、樋口の過去の膨大なドローイングを私が調査し、何らかのセレクションを行い、「他者による過去作品からのセレクション」を、小スペースで展示する可能性もある。そうなれば、「作家自身による最新作の展示」が実現するメインのスペースと、性格の異なる展示を比較しながら見ることが可能な刺激的な展示となるだろう。実現すれば、企画者が関与するプログラムとしての本展の魅力となることが期待できる。

以上、企画者という立場でこの展覧会に関わることになった経緯をメモ的に書き留めてみた次第である。

梅津 元 (埼玉県立近代美術館主任学芸員/芸術学)
2015年5月23日

以下、展覧会の詳細です。
 
Trans/speed, Dub/paint
樋口朋之 個展
企画:梅津元 (埼玉県立近代美術館主任学芸員/芸術学)
 
 ART TRACE GALLERY
会期、 7/24 (金)  ~  9/1 (火)
(水・木休廊 / 期間中,夏期休廊含む)
 
【前半】7/24(金)~8/4(火)
【夏期休業】8/5(水)~8/20(木)
【後半】8/21(金)~9/1(火)
【休廊】水/木曜日
 
住所: 〒130-0021 東京都墨田区緑2丁目13−19 秋山ビル1F
電話:050-8004-6019